15-07月号:岐路に立つマレーシア

一人当たりGDP一万ドル超

マレーシアの主都クアラルンプールではメインストリートにベンツとレクサスのディーラーが相対で店舗を構え、国民所得の向上を印象付けています。資源国のブルネイを除くと、マレーシアはシンガポールに続くアセアン第二の経済国であり、一人当たりGDP一万ドルを達成。一九九一年にマハティール首相が「ビジョン二〇二〇」を策定し、二〇二〇年までの先進国入りを目指しています。日本の九割程度の国土に人口三千万人、マレー系、中華系、インド系で構成される多民族国家、それがマレーシアです。

ただ、第二のシンガポールとしてイケイケドンドンでこれからも右肩上がりの成長かというと、現状それは難しそうです。ビジョン二〇二〇も九十年代初頭に作られた計画であり、当時は斬新だったものの、その後のIT技術の世界的な発達を考えれば既に政策内容に時代遅れ感が見られます。シンガポールのスピードで成長できていればよかったのに、そういう言葉が頭によぎりますが、三千万人という人口の規模感と多民族国家という背景がスピーディな変化を許さなかったのでしょう。


失効できないブミプトラ政策

現在のマレーシアの最大の問題はブミプトラ政策(マレー人優遇政策)の継続です。イギリスからの独立当初は中華系が経済的に優位であったため、人口の六十五%を占めるマレー人(土地の子、ブミプトラ)を優遇し、公務員への起用、あるいは国立大学への入学など、経済面からマレー人を優先してきました。そのため中華系、インド系は勿論、優秀なマレー人までもマレーシアから流出しています。隣にシンガポールなど魅力的な労働市場があるなら猶更、優秀な人材確保が国家的課題となりますが、マレーシアは明らかにシンガポールの後塵を拝しています。また、こうした多数派への優遇措置は一旦決まると失効することができません。日本の高齢者施策と同じですが、政策導入時にこの点は十分考慮する必要があります。


一企業に歳入の三割を依存

マレーシアのもう一つの特殊性は、その財政基盤の弱さでしょう。ペトロナスという国有の石油関連企業一社からの税金と配当に国家歳入の三割を依存しているのです。

このペトロナス、二〇一四年度は売上高十一兆円に対し営業利益三兆円という、アジアを代表する高収益企業で、液化天然ガスの輸出という意味で日本にも大きな影響力を持っています(なお、エネオスで有名なJXホールディングスは二〇一三年度で売上高十二兆四千億円、営業利益二千億円、二〇一四年度は赤字)。石油事業の川上(石油開発)で利益を出し、収益を税金や配当といった形でお国に還元する――ペトロナス設立当初(一九七四年)はそのような狙いはなかったようですが、事実上の収入源になるに伴い、構造化してしまった様子です。ペトロナスの業績がマレーシア財政の良否に直結するため、通貨リンギットの価値はペトロナスの業績に依存するといっても過言ではありません。ペトロナスの業績は原油価格に影響を受けますから、マレーシア経済もまた、ペトロナスという企業を通じて原油価格に大きな影響を受けているのが現状です。パームオイルと原油の影響から抜け出さない限り、マレーシア=資源依存国の印象はまだまだぬぐえないと思われます。


マレーシア、今後の展望

アジア通貨危機の際はIMFからの支援を受けずに独自路線で回復し、二〇一五年にはアセアン首脳会議も開かれたマレーシア。中進国のジレンマに陥ってしまうのか、先進国にブレークスルーできるのか、人材確保政策と産業政策を中心に、大きなビジョンと政策の見直しとが求められそうです。隣国にシンガポールのような先進国、中国、フィリピン、タイ、インドネシア、インドといったボリューム国家がひしめく中、どのように自国の方向性を打ち出すか、ナジブ首相の手腕が問われます。


編集後記

ニュースレターの発行に伴い、多くのお客様から好意的なご連絡を頂戴しました。本当にありがとうございました。

国内では安保法制、海外でもギリシャ問題やテロ事件など、風雲急を告げる大事件が立て続けに起こっています。そんな中、どのように自分自身と会社組織を方向づけていくか、各人の判断が求められていると改めて感じます。

今回はマレーシアを扱いました。こちらも政策の転換が求められ、国民が判断を迫られているように思います。

日本も対岸の火事ではなく、問題が山積み状態です。まさに国民の判断が求められています。

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