20-03号:ベイズの定理&コロナ

陽性か陰性か⁉

コロナウイルスが世界中に広がっています。武漢から始まった伝染は、いまやイタリア、イランその他に広がり、アジアウイルスどころかイタリアウイルスであり、またイランウイルスになってきています。

さて、世界中で「陰性か陽性か」という話が紙面を騒がせていますが、これはいわゆるPCR検査というもので、DNAやRNAの断片を人工的に増幅させて、分析しやすくする技術です(Polymerase Chain Reaction)。現代の分子生物学や遺伝子工学はこの技術がなければ存在しなかったともいえるもので、このPCR法を発見したマリス博士は九十三年にノーベル賞を受賞しています。


「擬陽性」の存在

ところで、世間ではこのPCR検査をもっと拡大せよと鼻息荒い声が聞こえていますが、実際の意味合いはあまりありません。そもそもPCR検査とて100%判別できるものでもなし、まして今後広まるであろう簡易キットだと更に精度は悪くなります。

例えば「浮かぶ武漢」と化したダイヤモンド・プリンセスで疑似的に考えると、二月十八日時点での公表データを基にして母集団をざっくり3,700人と考えてみましょう。PCR検査の精度を非常に高く見て、感度:95%(=感染者100人に対し95人を陽性と判定する能力)、特異度:95%(=非感染者100人に対し95人を陰性と判定する能力)とします。共に95%にすればかなり高いといえるでしょう。

日経新聞によれば検査を受けた1,723人に対して陽性と判定された人は454人だったそうなので、有病率は一旦26%と置きましょう。この前提でダイヤモンド・プリンセス全体を検査してみたとします。

  • 実際に感染している人=3,700人×26%=962人
  • 感染していない人=3,700人- 962人=2,738人

その上でPCR検査をすると、

  • 全体で陽性と判定される人:
  • 本当に感染している人:962人× 95%=914人
  • 本当は感染していない人:2,738人×5%=137人(偽陽性

同様に偽陰性の人間も48人発生します。「陰性だったけど陽性だった!」など出てくるのは当然です。勿論、しかるべき検査手続きをしていても、という意味です。


日本全体で同じ話をすると・・・

ところで、この話を日本全体に仮に拡張してみましょう。日本で実は10万人の感染者がいたとします。人口を1億2千万人とすれば、全体の有病率は0.08%です。同じようにPCR検査の精度を感度・特異度ともに95%だったとして、ランダムにピックアップしたある人がPCR検査で陽性であったとしたとき、その人が本当に感染している確率はどの程度でしょうか。これは「ベイズの定理」という基本的な条件付き確率の問題として解くことができます。詳細は左の図表を確認していただきたいのですが、結果として、ある人が陽性だと判断された場合に本当に感染している確率は、先ほどの前提条件の下では

  • 9.5/(9.5+599.5)=1.6%

となります。ランダムに選んだ場合、PCR検査で「陽性」と判断されたとき、本当に感染している確率は1.5%、それもこれはPCR検査が(コロナウイルスに対して)かなり精度が高いと想定した場合です。この場合でも、本当は感染していないけれど陽性反応が出る擬陽性が1億1990万人×5%=599万5千人出てしまいますし、これは実際の感染者数を大きく超える数としてノイズになってしまいます。

ここから帰結されることは、まず「感染確率が高い人を検査することが重要」ということ、そして「結局自分が感染しているかは分からないので、検査云々よりも、とにかく過剰に防疫措置と感染予防をとることが重要」ということでしょう。インフルエンザと異なり、相手の性質が分からない以上、徹底的な戦力投入をする必要があります。ウイルス相手に戦力の逐次投入は意味がありません。

検査結果は全体の動向をうかがう目安でしかありません。分かっていることは高齢者の致死率が10%を超えるということです。とにかく今は医療体制の維持を最優先にしながら、「疑わしきは隔離」として総力戦で臨むことが大切です。

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