24-02-1号: 人口減少問題への手触り ~2022年の国勢調査ベースに

■人口減少問題への手触り ~2022年の国勢調査ベースに

日本の人口は2005年に戦後初の減少を観測し、その後の横ばいを経て2011年から継続的に減少局面を迎えています。それでは今、日本の人口減少はどの程度で、今後はどのような予測になっているのでしょうか。また、その前提はどういうものでしょうか。「人口減少社会」という言葉はよく聞きますが、改めて具体的に検討することは今後の社会を占う上で重要かもしれません。


1.人口推計の方式と人口モメンタム

人口の予測は、出生、死亡、そして国際的な人口移動という3つの要素から行われます。2023年8月に出された国立社会保障・人口問題研究所の報告書では、足元の仮定は以下の表の通りです。

特殊出生率

国際的な人口移動がないとしたとき、現状の死亡水準で人口維持ができる出生の水準(人口置換水準)は合計特殊出生率で2.07程度といわれています。従って、現在の合計特殊出生率では人口の維持はできず、もし維持しようと思えば出生率を上げるか、外国人の移入を進めることになります。ただ、日本の合計特殊出生率は1974年以降、一貫して人口維持ができる水準を下回り、かつ低下傾向を続けていますので、出生率を上げることは極めて困難であると言えるでしょう。

もっとも、合計特殊出生率が2.07以下になったとしても直ちに人口規模が一定あるいは減少するわけではありません。それまでの出生率が人口維持ができる水準以上であったならば、暫くは増加傾向が続いていきます。これを人口モメンタムといいますが、人口全体の年齢構成の問題で、今年生まれた子供が出産適齢期になるまで20年以上の時間を要するとすれば、今時点で出生率が下がったとしても、それが結果に表れてくるまでには20年以上の時間が必要だということです。逆に言えば、たとえ足元で急に合計特殊出生率が上がったとしても、それがいきなり人口増加に繋がるわけではありません。効果が出てくるのは数十年後であり、だからこそ「日本は今後21世紀の大半を通して人口減が続くであろう」ということがかなりの確度で言えるのです。


2.現在の推計とその帰結 ~従属人口指数と外国人割合

団塊の世代の方々が高齢者になっていく中で、今の日本では本格的に人口が減っていくことになります。推計における人口減少幅(純減の数)はどの程度でしょうか。2022年では▲71.3万人、2030年では▲82.1万人の予想となっています。以後、減少人数は増加を続け、2061年に▲100.4万人と100万人以上の減少となります。この82万人や100万人の人口規模については、例えば佐賀県や山梨県の人口が80万人、富山県や山形県の人口が100万人程度であることを考えると深刻です。要するに、日本の地方の県が1年で1つずつ消滅していくのと同程度であり、日本経済に非常に大きな影響があることは自明といえるでしょう。

人口減少幅の推移

また、上記の人口問題研究所の今の推計のままでいけば、現役世代と扶養人口(子どもと高齢者)の比率である従属人口指数は右肩上がりで50%を超え、現役世代一人の負担は否応なしに増加していきます。年金など社会保障の1人当たり負担をどのように考えるか、改めて検証していく必要性があるでしょう。もう1点指摘すべき点は、今のシミュレーションでは外国人の流入人口を足元の16万人で固定し、50年間流入し続けるという前提だということです。

将来人口と外国人割合推移

人口内訳と従属人口指数

しかしながら、今後50年にわたって日本へ16万人以上の外国人が流入し続けるという仮定はあまり現実的ではないように感じます。第一に他の東アジア諸国が成長する中で日本の魅力がそこまで持続するのか、外国人が日本に定住しようと思う動機はどこまであるのか分かりません。日本には「日本語」という参入障壁もある中で経済も弱含みしていくとすれば、楽観的に「日本には来てくれるだろう」と考えるわけにはいかないでしょう。そして第二に仮に16万人の流入が続いた場合、2070年には外国人割合が12%となります。「12%」という数字は日本全国の平均であり、東京や大阪などの都市部であれば3割、4割と外国人になっている未来が予想されます。このような状況を日本国民は想定していないのではないでしょうか。このように、単純に足元の数字(16万人の流入)を前提にできないとすれば、日本の人口減少はさらに激しく進むことになります。そしてもし移民を人口減少の打開策として採用するのであれば、今時点から早急に外国人の社会的包摂について制度設計を進めなければなりません。移民の受け入れが引き起こす社会的課題は欧州を中心に研究が多くありますから、それらを参考に具体化していく必要があるでしょう。


3.人口と経済成長の関係、そして日本の可能性

ところで、人口は経済成長に大きな影響を及ぼします。GDPの構成において最も大きいものは通常「消費者支出」ですし、潜在成長率を考える際も「就業者数」は構成要素の一つを占めています。今の日本銀行の統計上、就業者数はプラスで推移していますが、これは高齢者や女性の活用によるものであり、これも限界が来るでしょう。

人口内訳と従属人口指数

この潜在成長率のなかで日本が大きく改善する余地があるのがTFP(Total Factor Produvtivity:全要素生産性)と呼ばれるものです。要するに技術革新などを通じた生産性の改善ということですが、足元のロボットやセンサー、AIなどの発展によって、多くの業務が機械やAIによって代替しうるものになっています。コミュニケーションのとれる介護ロボットだけでなく、お店の店員や案内所の係など、むしろロボットや生成AIが対応した方が正確で間違いがないというケースも多くなっていくでしょう。日本が世界に先駆けて人口減少社会に突入している今、人口に依存しない社会や経済発展を日本だからこそ実現できるのではないか、生産性を下げてでも雇用を守るという発想ではなく、自分達の生活を守るために生産性を圧倒的に上げていくような変化ができるのではないか、そのような知恵が試されているように思います。地方では既に限界集落が出てきている中、変化への圧力は高まっています。

 

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