干支から見る時流
二〇一六年は国内外ともに動きの多い年でした。変化のスピードも益々速まっており、冷静に時局を観察することも難しいように感じます。
「歴史は同じようには繰り返さないが、韻を踏む」(マーク・トウェイン)。その意味で、六〇年で一回りする干支(かんし)を眺めながら、年始に時代の流れをゆっくり考えることにも意味があるでしょう。
干支とは、幹(=干、十干)と枝(=支、十二支)、合わせて一本の草木、一個の生命体を表しており、生命の発生から衰退、新しい息吹までの過程を経験的に六十の範疇に分けた東洋古来の経験哲学のようなものです。長い歴史の中で統計的に実証された時代の流れ、栄枯盛衰の過程を体系的に整理したもので、歴史のエッセンスと言ってもよいでしょう。日本では「子(ね)・丑(うし)・寅(とら)…」とすっかり世俗化していますが、動物に関係があるわけではありません。
丁酉(ひのと・とり)
今年の干支である丁(てい)酉(ゆう)ですが、丁(ひのと)という字は、草木が繁茂して自分の重みでしなだれてくる形を模したものといわれます。酉(とり)は「酒」、甕(かめ)の中で麹(こうじ)が発酵していくことを表し、転じて新しい革新勢力が現れることを表します。結んで「丁酉」は、前年まで続いた既存の体制が成熟を迎え、大勢として形になってくる一方、その中から新しい時代の芽、革新の芽が生まれてくる年であると解釈できるでしょう。
前回(六〇年前)の丁酉は一九五七年(昭和三二年)、岸信介内閣が誕生し、高度経済成長初期として一億総中流に向かうタイミングです。欧州では今のEUの先駆けである欧州経済共同体(EEC)が設立されました。その前の丁酉は一八九七年(明治三〇年)、日清戦争の賠償金で念願の金本位制を確立し、日本は国際的な存在感を示し始めます。一方、足尾銅山の鉱毒問題で大規模な陳情があり、政府が対応を始めた年でもありました。
さて、今年の丁酉は
さて、今年はどのような年になるでしょうか。昨年は与党が参院選で大勝し、改憲勢力で議席の三分の二を確保する一方、天皇陛下の生前退位問題が世間を賑わせました。海外に目を向ければ、世界的にグローバル化が進む中でEU離脱の動きや米国の孤立主義への揺り戻しなど、政治の不安定化を招く事件が相次いでいます。
今年は今までの大きな流れは変わらずも、新規勢力が台頭する年となりそうです。企業においても、今までの総論賛成だけでなく、各論で抵抗勢力が出てくるかもしれません。そんな混乱が予測される中、私たちは単に新奇なものに飛びつくのではなく、衝突を恐れず議論し、一段高い解決策へと結びつけなくてはなりません。豊洲市場の移転問題や五輪施設問題など、「すべて政治は利害関係者大多数の無関心に基礎をおいて」(ヴァレリー、「党派」)おり、「これがなくては全く政治は可能でない」(同上)のかもしれませんが、こういう時こそ目の前の混乱を確りと整理し、実践的に方向付けできるよう、一人一人の意識を高めていく必要があるでしょう。
来年の干支は戊(ぼう)戌(じゅつ)です。字義は共に「茂」と同じで、草木に枝葉が繁茂し剪定しなければ手が付けられなくなる状態を表します。大きな流れを捉え、ステップアップできる年としたいものです。
編集後記
皆様、新年明けましておめでとうございます。
「みどり子や御箸いたゞくけさの春」(一茶、「七番日記」)。私事ですが、子どもが一歳九ヶ月となり、家に暖かな灯りが点(とも)るような有難さと、何事もない日常の大切さを感じます。この子らが幸せに成長できるよう、今の私たちがしっかりと道を切り拓き、方向性を示していく必要性を感じています。
一年の計は元旦にありと申します。「元日や此(この)心にて世に居たし」(闌(らん)更(こう))と、いつになっても元日は清々しく、新たな気持ちになるものです。雑念を去り、心を一洗して新しい生活を踏み出して参ります。