17-01号:変わる音楽の調べ

売れる音楽は変わる?

二〇一六年度のCD売上ランキングがオリコンリサーチから発表されました。その上位は「AKB(及びその派生グループ)」と「嵐」というアイドルグループによって埋め尽くされています(裏面参照)。これを見て「今の音楽業界は…」と思う方もいるかもしれませんが、このAKB系と嵐が独占するパターンは実は二〇一〇年から継続しています。

「最近はいい曲がなくなった」というやや繰り言めいた発言は、いつの時代にも繰り返されてきました。演歌が好きな世代にJ-POPは分からないかもしれませんし、もう一つ前の世代の人にとっては演歌もまた淫らな歌謡曲に過ぎませんでした。最近亡くなった岡崎邦彦氏によれば、「あるとき演歌を歌っていたら、(中略)『岡崎さん、どうして男が女の歌を歌うのです!』と咎められ」たと述懐しています(『教養のすすめ』)。

より冷静に見れば、演歌からJ-POPへの変化というのは、購買層の変化でした。それまでレコードやカセットテープ、あるいはラジオを購入できたのは、収入のある中年男性ということだったのでしょうが、日本が豊かになるにつけ、若い層でも音楽を楽しむことができるようになったのだと考えられます。


音楽業界の変化

近年までの音楽業界といえば、アーティストとレコード会社、プロダクションがタッグを組んで楽曲を売り出していました。しかし携帯電話の進化と共に、着うた・着うたフルなどデジタルで音楽を聴くことができるようになり、iPodの登場によってその流れが一気に加速します(ジョブズは「一〇〇〇曲をポケットに」と言いました)。その後、ユーチューブの出現によって更に業界に激震が走ります。誰でも動画を無料かつ無制限にアップロードできるため、実質的に音楽が無料でシェアできてしまうことになりました。現在ユーチューブはグーグル社の一部ですが、「最強の暇つぶしサービス」として動画配信プラットフォームの地位を確立しています。このような中、音楽配信も従来のダウンロードからストリーミングへと変化してきており、既に月額定額制で聴き放題というサービスが一般化しています。このストリーミングサービスの普及によって音楽産業の復権とみる向きもありますが、往時のCD等の市場規模に比べると見る影もなく小さいのが実態です。


本当の構造変化と新しい試み

技術の進化を受けて音楽業界が大きな波に飲み込まれていることは事実です。しかし同時に指摘しなければならない点は、もはや音楽以外の「楽しいこと(=娯楽)」が多すぎるということでしょう。それはLINEでの友人との会話かもしれませんし、スマホゲームかもしれません。いずれにせよ、スマホの普及によって娯楽の選択肢も通信費も増えている今、音楽に避ける時間もお金も減ってきているということが音楽業界に対する本質的チャレンジであろうと思われます。

AKBは音楽というよりもファンとのコミュニケーションを売っています(握手券や総選挙での投票)。CD売上については、そのマネタイズ(収益化)のために既存の販売ルートを利用しているに過ぎません。一方でライブやコンサートの市場規模は大きくなっており、消費者は体験型の音楽により大きな付加価値を見出しています。

また、新しい変化としてNoteやtune core等、アーティストが個別に楽曲を売ることができるプラットフォームも整備されつつあります。各アーティストが自由に価格設定でき、「今日のリハーサルです」といったものまで自由に販売することができるようになっています。音楽の世界においても、マスメディアとのコラボによる大量販売というモデルから、クラウドファンディングのような、新しい分散型の仕組みが始まろうとしています。


編集後記

スマップの解散とピコ太郎の登場は、ある意味で時代の象徴かもしれません。音楽提供の仕方において、新旧代表者の世代交代というと牽強付会に過ぎるでしょうか。音楽なのか、というものも含めて近年は様々なものが出てきています。

高級料亭と外食チェーンが異なるように、音楽産業にも色々な立場があり、それぞれに役割があると思います。知名度の低いアーティストにも機会が与えられることは良い時代でありましょう。

音楽業界の変化は他の業界でも起こっている大きな流れの一環に過ぎません。変化対応という点で他山の石としたいものです。

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