22-08-2号:日本の競争力再考

日本語と給与の関係

最近読んだブログで、日本語と給与の関係について述べている興味深いものがありました。書き手の方は韓国在住の日本人で米国系企業に勤務されており、記事の内容は「日本語を話せると分かると給料が格段に下がる」というものです。例えば米国で転職エージェントに登録し、その人が日本人で日本語が出来る、と分かった瞬間、紹介される案件が日系企業関連中心となり、給与水準が半減、モノによっては四分の一になるケースもあるとのこと。これはあくまで日本企業が支払う給与水準が低すぎるという話であって日本語に罪はないのですが、何ともやるせない話です。結局、今回の事例では「日本を離れて長いので実は日本語は苦手、あまり出来ません」といって給与の水準を元に戻してもらうことになったようです。

一時期、中国のファーウェイが日本法人を設立する際、新卒給与を40万円/月と提示し「ファーウェイショック」と呼ばれたことがあります。ただ、ファーウェイの本拠地である深圳で優秀な若者を採用しようとすればそれ以上に高額でなければ採用できず、その意味で日本は既に買い叩かれているというのが現実です。足元の急激な円安と合わせて、日本人の給与は確実に下へ下へと落ちていっています。


有事の円買い?

従来、国際関係が不安定化(=有事)すると、円買いあるいはドル買いが行われ、ドル高や円高になることが観察されていました。いわゆる有事の円買い、有事のドル買いですが、これは一般的に「相対的に安全な円やドルに資金を移すことで足元の有事をやり過ごす」という意味で、少なくとも円を長期的に保有したいということではありません。長期的に見れば国家債務が1,240兆円を超え(22年3月末、GDP比約240%)、人口減少が進んでいる国を信用している為替トレーダーなど存在しません。それでもなお日本円に一旦宿借りしようと思うのは、家計金融資産二千兆円の内六割が預金・現金であり、日本国民が円の価値を一蓮托生で連帯保証しているからに他なりません。もし足元の急激な円安で国民(とりわけ家計の6割を握る高齢者)が資産防衛を開始し、海外に資本逃避を始めてしまえば、今の水準どころではない円安が一気に加速することになるでしょう。一般論で言えば、私たちは通貨ではなく、何らかの実物資産に切り替え、インフレや円安への抵抗力を高めておくことが必要になります。


給与から見える、日本企業の本当の課題

改めて日本の給与水準の話に戻りましょう。今や日本は世界的に見て(人材含め)安い国、海外企業から見たときに人材の草刈り場になりやすいのです。比較される日本企業の給与水準が安いため、競合企業から高額給与提示に伴う引き抜き合戦は既に仕掛けられており、特にエンジニアに関しては深刻な問題です。先般、東京エレクロトンの夏季賞与引き上げ(平均約3百万円の積み増し)が話題になりましたが、このような技術者の奪い合いが背景にあるのです。

さて、この日本の給与問題ですが、よく考えるとそれほど(競合比)低賃金なのであれば、日本企業の利益率がよほど高いのではないか、と想像したくなるものです。しかし、実態は海外の大手メーカーやIT企業の方が遥かに利益率も時価総額も高いのは周知の事実でしょう。ここに今の日本の実態が集約されているのですが、それほど人件費が安く、足元の円安で海外とのコスト競争力もあるにもかかわらず、多くの日本企業は停滞し利益率も海外競合以下であるという「事実」が意味することは何か、それはそもそも日本企業の製品の付加価値が低く、生産性が悪く、結局のところ競争力がないということなのです。日本では製品やサービスのイノベーションはおろか、製法においても従前のやり方を踏襲・改善することが中心でイノベーティブな発想を取り入れてきませんでした。その間、米国ではITサービスでGAFAM等のプラットフォーマーが台頭し、欧州でもドイツなどはインダストリー4.0などIoTの先進的な取り組みを進めています。新興国は既得権がない分アグレッシブに先端技術に力を入れ、先進国を追い越しています。日本はまず自国を鏡で見て、この現実を真摯に見つめ直すことから始めなければなりません。


編集後記

先般日本に帰国した際、日本の暑さに目が眩むようでした。そんな中、今回は日本の給与問題から企業の課題を深掘りしています。

シンガポールの駐在員の方と話したとき、海外勤務では家賃や子供の教育費など福利厚生の補助が手厚いという話になりました。それ自体は良いことである反面、実際は社員のベースの給与が低すぎ、そういった福利厚生を含めなければシンガポールで労働ビザが下りないというのが真実のところです。

日本は老後に移住する国だ、といわれるのは名誉ではありません。再度腹を括って競争力を磨き直す必要があります。

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